WEAKEND
- 創作コンテスト2012 -

「・・・」

アレッソの技の威力にダイチ達は唖然としていた。

思わず足を止めてしまう程に。

 

「も、もう無理だよ…」

その技は精神的にも大きなダメージを与えたようで、トトの戦意も喪失しかけていた。

「まだだよ! まだ行ける!」

「ダイチ…」

 

トトはまだ踏ん切りがついていないようだ。

もう一押し、何か背中を押してくれるものが必要だった。その時…。

 

「ほら、まだ終わってないよ!」

「頑張れダイチ、トト!」

 

周りの村人達も温かい声援を与えてくれた。その中にはネニーネの姿もあった。

 

「わぁ…。 よし、行こうダイチ!」

「うん!!」

 

声援を力に替え、二人は再び進み出した。

 

その様子をアレッソも見ていた。

「アレッソ?」

「…ファイアウォル」

「ちょっ、いきなり!」

 

ダイチ達の目の前に紅いラインが走ると、そこから発火した。

「うわっ!」

燃え上がる炎は壁となって立ちはだかる…。

 

「容赦なしやな…。少しも勝機を残さん気か?」

「アレッソ君にも意地があるからね。負けたくないんだわ」

「バクエンさん!」

事態を重く見たのかトビカゼとヘレンもバクエン達と合流した。

 

「流石にアレは危険ですよ!

今のダイチならあのまま突っ込むって言いかねない!」

アレッソのつくり出した炎の壁は広範囲に広がっていた。

避けて進もうとすれば大きな時間のロスとなってしまう。

 

「そうやな…。普通なら時間がかかっても避けて進むもんやが…。

念のために、トビカゼは危険やと思ったら瞬移で止めに入るようにしてもらえんか?」

「了解」

「ヘレンさん、私達も回復魔法の準備をしておきましょう」

「ん、わかっているよ」

 

ダイチ達は炎の壁を前にして決断に迫られていた。

「どうする、ダイチ?」

「突っ込む」

ダイチは即答した。

「へ?」

「だからこの壁を突っ切る! じゃなきゃ勝てないよ!」

「え〜無理無理、ダイチに出来てもオレには無理!」

「じゃあどうするの!?」

「え、あ〜跳び越えるとか?」

特に策を考えてなかったので苦し紛れに案をだしたのだが…。

当然却下されるだろうことは見え見えだった。

「でも!この壁結構高い…」

威勢よく話していたハズのダイチが急に沈黙する。

「ど、どうした?ダイチ?」

心配そうに声をかけたトトだったが、次の瞬間…。

「そうだよ!跳び越えればいいんだ!」

「え?」

トトは口をぽっかり開けて固まってしまう。

それとは逆にダイチは行動を開始した。

魔力をいつもより多めに練り上げたダイチは地面に手を触れさせた。

「これでどうだ!」

ダイチ達の足下の地面が盛り上がり、小さな山ができ上がっていく…。

「おわっと」

グラグラと揺れる地面にトトは体勢を崩しそうになる。

 

「あれはストーンブリッジか? あんな技出来なかったハズやが」

「状況を打開するために実力以上のものが出たんだわ。

ストーンブリッジにしてはまだ隆起が小さい不完全な状態だけど」

 

「よし、行こう!トト!」

「ま、まさかここから跳んで炎を越える気?」

ダイチがつくり出した隆起は炎の壁の高さを越えていた。

つまりそこからジャンプすれば跳び越えることは可能。

しかし、それなりの高さがあるため、跳び降りるというのは少々危険だ。

それも二人三脚の状態なら尚更である。

「跳ぶぞ!」

「えっちょっ…」

ダイチが跳ぼうとしたその時、

「待って!」

隆起の下から誰かが話し掛けてきた。

それはネニーネの声だった。

彼はダイチ達が心配で近くまで来てくれていのだ。

「ネニーネ?」

「ダイチ君、息を合わせてジャンプしないと危険だよ。

スタートの時みたいになっちゃう!」

 

ダイチはその時のことを思い出した。

スタート時、ダイチはトトの準備を待たずして走り出してしまった。

結果転んでしまったのだった。

もし今も同じようなことをすればどうなるか…。

ダイチは若干青ざめながら想像していた。

「ネニーネ、ありがとう!」

彼は笑顔で頷いて答えてくれた。

「トト、ごめん! 一緒に跳ぼう!」

「お、おう」

トトも怯え気味ではあるが決意は決まったようだ。

「行こう!」

「「せーの!」」

二人は声を合わせて一斉に跳んだ。

二人の身体は炎の壁を越え、後は着地をするのみ。

村人達は息を飲んで見守った。

 

トンッ

無事に二人とも着地に成功した。

「やった!」

その瞬間、村人達も湧いた。

 

「型に捉われない、自由な発想の賜物やな」

「子ども達は凄いな。短期間でこれだけ成長できるものなのか…

少し、羨ましいですね」

「おぬし達もまだまだ可能性に満ちておるよ」

「じっちゃん!」

いつの間にかゼヌスまでバクエン達の元に来ていた。

「子ども達の成長は凄まじいものがある。

だが、おぬし達だってまだ成長できる。

『成長』とは身体や身体能力の向上だけではないのだからな」

「なるほど、流石はじっちゃんやな」

「無論、わしだってまだまだおぬし達に劣るつもりはない。

少なくとも気持ちではな

とにかく、今は子ども達を見守ろう。大人として」

 

 

「よ〜し!この調子でもっと行こう!」

「お〜!」

勢いづいた二人は今までにないスピードで一気に進んでいく。

 

…がしかし、

再び村人達歓声が沸き起こる。

ゴールを見れば既にアレッソ達はゴールテープを切ったところだった。

「そんなぁ〜…」

 

途中、激しい攻防戦を繰り広げた二組だったが、

最終的には終始安定した連携で走っていたアレッソ達が勝利を治めたのだった。

 

 

・・・

決勝を終え、閉会式が始まった。

「あぁ〜負けたぁ〜…」

ダイチはまだ勝負のことを引きずっていた。

「でも最後は凄かったよ!

あの感じで最初から行けてたら勝ってたかもしれないし」

ネニーネが懸命にフォローしている。

「あぁ、ダークお姉ちゃんのドーナッツ…」

「あ、そっか、ドーナッツのためにダイチ君は頑張ってたんだっけ?」

丁度その時に優勝賞品の贈呈が行われていた。

「はい、アレッソ君、よく頑張ったね」

ダークがアレッソに賞品のドーナッツを手渡した。

アレッソは黙って受け取ると、軽くお辞儀をして元の位置に戻ろうとした。

しかし、

「あ、アレッソ君、ちょっと待って」

ダークはアレッソを引き止めると小声で何かを伝えていた。

アレッソはダークの話が終わると心なしか俯き加減に戻っていった。

「では最後にゼヌスさんからお話を承りたいと思います」

ゼヌスが前に出てくるとゆっくりと話し始めた。

「この大会の最初から最後まで一人一人の姿を見てきた。

本当にみんな一生懸命にやっているのがよく伝わってきてわしは本当に嬉しかったよ。

結果として勝ち負けはあったかもしれないが、それとは関係なく必死になって頑張ったということは次に生かせるはずだ。

これからも一生懸命に、そしてみんなで仲良くしていって欲しい。

今日はみんなお疲れだった」

こうして今年の大会は終わった。

 

「ドーナッツ…」

式が終わってもうわごとのように同じ言葉をくり返すダイチ。

トトもネニーネももはや何と声をかけていいかわからない状況だった。

その様子をアレッソも見ていた。

すると何を思ったのか、アレッソはダイチ達に近づいてきた。

「おい」

アレッソの声を聞き、ダイチは顔を上げた。

「そんなに欲しいならこれはやるよ」

アレッソは賞品のドーナッツをダイチの前に突き出していた。

「え?ほ、ホントに?」

少しダイチの顔に光が差してきた。

「ああ、オレは食料が欲しければ自分で採れるから、な」

 

「やった〜!!!」

ダイチは快くドーナッツを受け取ると大はしゃぎした。

一方のアレッソはさっさとどこかへ行ってしまった。

 

「沢山あるし食べ放題だ〜!!!」

先程までとは真逆で有頂天になっているダイチ。

「ん〜せっかくこれだけあるんだから、みんなで分けない?

僕達だけじゃなくて村の子ども達みんなで」

さりげなくネニーネが提案した。

「ええ〜…。んん〜」

ダイチは少し冷静さを取り戻し、

渋い表情をしながら長く考え込んでいる。

 

「そうだよね。こんなにあるのにオイラ達だけ貰ったら悪いもんね」

トトもそれには了解してくれた。

さっそくダイチ達はドーナッツを分けて回った。

そして最後の一人にダイチは差し出した。

「はい!アレッソ君!」

元はと言えばアレッソのものであり、それをダイチから渡されるというのも変な話ではある。

 

「オレはいいよ」

あっさりと断るアレッソ。

そこにはヴェイパーもおり、少しイタズラ心を覗かせながらアレッソに話しかけた。

「ダークさんのドーナッツなんてオレが欲しいくらいなのにな〜。

アレッソがいらないならオレが貰おうか?」

若干アレッソはムッとしたようだ。

「わかったよ。今日くらいはお前らに付き合ってやる」

そう言ってダイチからドーナッツの切れ端をもらったのだった。

 

「何だかんだでいい感じになってきたやないか」

子ども達の様子をバクエン達は見守っていた。

「すみません。私が子ども達みんなで食べられるようにって材料を多めに使ってしまって…」

「それはいいんよ。こうして子ども達の仲は良くなってきたことやし。

それに食料はわしらで頑張って集めればいいからな」

「そういえばあの時アレッソ君に何を話してたの?」

「あ、あれは少し多めにつくってきたからみんなで分けて食べてくれると嬉しいなって言ったんです。

でも私が言わなくても自然とその流れになってたみたいですけど」

「それにしてもよくアレッソはダイチにドーナッツを渡しましたね。

いくらダークさんに言われたとは言えあそこまでする子には見えませんでしたが…」

「そうやな。ひょっとしたらダイチの頑張りを見て、考え方が少し変わったとか。

あるいはダイチのことを少しは認めたのかもしれんな。

っと、そんなことより子ども達も盛り上がってることやしワシらもパーっとやるか!」

「え?、わ、私はまだお酒はちょっと…」

「っていうより、お酒だって少ないんだから考えて飲まないとダメでしょ?」

「ケチケチすんなや。今日は特別や! 飲むでぇ!」

バクエン達が騒いでいるのに気付き、ダイチ達もやってきた。

 

「あ、バクエン!何飲んでるの?」

「こ、こらダイチ『お酒は大人になってから』や。

興味示さんくてもいい!」

「ええ〜バクエンって大人に見えないよ〜?」

「失礼なやつやな!

おぬしの未来もこんな感じや!」

「ええ〜!!やだっ!

こんな大人になりたくない!」

「「「アハハハ」」」

子どもも大人も、みんな大笑いしていた。

 

 

みんなで分け合って一つ一つが小さくなったドーナッツ。

若干喧嘩混じりでも騒ぎながら飲んだ酒。

どちらも忘れられない最高の味だった。

 

その味と共にこの思い出もきっと彼らは忘れないだろう。



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