WEAKEND
- 創作コンテスト2011 -

※過去話・多少の捏造設定有



もう、いいかい。


もう、いいかい。



聞こえない返事を無視して走り出す。

届かない声で、呼んでいるのを知っているから。





会場を飛び出した。
後ろでディーンが、自分の名を叫んでいた気がする。

「……ちっ」

長い廊下を疾走する。
ばかやろう、と呟いて。
それは彼女へ向けたものか、それとも自分へ向けたものか。



食堂。姿無し。
隊舎。姿無し。
事務科。姿無し。

城内を駆け回り姿を捜す。
医務室を覗いてやはり見えず、しかし予想通りだった為すぐに身を翻す。


いない場所を必死に捜す自分。
いない事に安堵する自分。
何という矛盾だろうか。
しかし残念な事に、矛盾の正体は自覚している。

彼女の変化を予想する自分と。
彼女の不変を淡く望む自分と。

「……ばかやろー」

もう一度だけ呟いて。
城の外へと、走り出た。



既に夕刻間近だった事もあり、庭は微かに朱を帯びた陽光に照らされていた。
昼間多くの天使が憩う空間に今人影は無く、普段この場所が苦手な自分も気にせず大股で横切る事が出来た。

目指したのは、庭の角の大木。
自分に、否、自分達にとって、とても懐かしい場所。



――もういーかい

――まーだだよ

――もういーかい

――もういいよ



まだ幼い頃。
何も知らず無邪気に皆で、暗くなるまで走り回っていた頃。



――あの子がいないよ

――何処にもいないよ

――ずるしてるんだ

――帰っちゃったのかも



――……そんなわけないだろ

――ほら、



「見つけたぜ、サキ」



木の上に、影。
あの時と然程変わらない、小さな姿が見えた。
違うのは、お互い青襟に身を包んでいる事だけ。
声に驚いた様に、彼女は此方を見て……オレを見つけた。



「変わんねーな。人間は視界より高い所には意識を向けにくいってヤツ?誰と隠れんぼだよこんな時に」
「……ジン」
「何してんだよ。中級試験の最終面接抜け出して」
「……」
「いい加減に戻らないと順番回ってくるぜ。行くぞ」
「…………た」

「あ?」
「何しに来た!!ジン!!」
「あぁ!?」

急に向けられたトゲに、一瞬苛立ちをを覚えたが。
此方を睨む目が赤いのを認め、怒りを押し殺した。

「……てめーな」
「貴様に何がわかる!!何も知らない癖に!!」
「んだとてめー!?」
「いつもフラフラと任務も真面目に取り組まない貴様に、中級に上がるプレッシャーなど分からない!!」
「……」
「そうやって、人の話も聞かず突っ走ってばかりの貴様に私の気持ちなど何も、」

「……あぁ?」

思った以上に、低い声が出て。
彼女が木の上で、びくりと肩を震わせたのが見えた。

「……あぁ」

落ち着けと、心の何処かで宥めながらも。
今しか無いと、思った。



「……知らねぇよ!!」

――あの子を宜しくね、ジン君――

「てめーが独りでウジウジ悩んでんのも!!実の親に我儘一つ言えねー意地っ張りってのも!!」

――俺が見る限りは、いつもあんな感じかな――

「"親の七光り"って年上の下級の女たちに試験の間中嫌がらせされてんのも!!てめーが話さねーなら何も解るわけねーだろうが!!」

怒鳴った。
後に残る不快感は、自分に向けた苛立ちが含まれている所為だろうか。

「てめーが、何も言わねーから、」

だから、探してしまう。待ってしまう。
幼い頃聞いた『もういいよ』を。
今は聞こえない、彼女のサインを。



「……言え。声に出して叫べよ」
「……」
「一人で抱え込んで黙って閉じこもってても、誰も気付いちゃくれねーだろ」

コトバが無ければ、伝わらない。
一言で、いい。遠慮なんからしくない。

――またジンくんがサキちゃん見つけたね
――すごいね。どうしてかな、サキちゃん?
――うーん、くやしいけどきっと、



「"かぞく"なんだろ。オレらは」



それは彼女が散々、自分に言い聞かせた言葉。



「……っ」
「お」

ストンッ、と。
木の枝から飛び下りて、彼女が地面に立つ。
俯いたままの姿に、オレは背を向けた。

「ディーンにまで心配掛けやがって。あいつ落ちたらサキてめーの所為……あーでも元々受かる気しねーって言ってたか」
「……ジン」
「おら、走れ。これで面接欠席不合格とかになったらそれこそミカさんの面子に関わんじゃねーの」
「えっ!?い、行くぞジン!!」
「お」

途端、俺を追い抜き会場へ駆け出した背中。
ダッシュして追うと、ふと此方を振り向いて。
昔の顔で、笑った。



「ありがとう、ジン」



「……ったく。変わんねーな」

建物内に消えた姿を、見送った。
いつの間にか陽はだいぶ傾いていて、紅が眩しく庭を染めている。

「……ホントに、変わんねー……」

けれどそれが今は、柄でもなく嬉しかった。

「……」

頭にやった手をポケットに戻す。
庭に背を向けて、建物へ向けて歩き出した。

きっと彼女は、中級試験に受かってしまうだろう。
それでもきっと、今まで通り。
何一つ変わらず、毎日は続いていくのだろう。

「……ったく。敵わねー」

最後にぼそりと呟いた。
見上げた東の空に、のぼったばかりの月が青く輝いていた。





fin.



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