WEAKEND
- 創作コンテスト2010 -

(朝だ…)

 

 

暖かい光が差し込む。

薄目で時計を見る。

まだ起きる時間までには少しある。

(もう少し横になろう)

 

 

男の暮らす国バルトセルバはナグドラ様の『預言』通りに行動する事を義務付けされている。

男の住居は国の外れ。

監視役が訪れるのは他の国民より少し遅い。

監視役が持ってくる『預言』が無いと男は動けないのだ。

 

 

扉の音がした。

監視役が来たようだ。

 

 

「おはようございます。今朝もお勤めご苦労様です。」

「こちらが今日の『預言』です」

「はい、ありがとうございます。」

 

 

男は『預言』を読む。

 

 

芽の頃12-30 監視役の訪問により目覚める

芽の頃12-45 『預言』を読む

芽の頃17-50 鍋を火にかける

芽の頃18-00 野菜3切れを煮込む

芽の頃18-48 畑を耕す

芽の頃26-14 「疲れた」と呟く

芽の頃26-16 畑周りの草むしりをする

 

 

今日も『預言』通りの一日が始まる。

 

 

国外れである為、監視役が訪れるのも少ない。

一人で居るのが殆どだ。

3日に1度だけ食料を交換する為、他人と会話する。

勿論『預言』通りに。

 

 

畑を耕す。

(いつもより風が速いな)

そう感じたが手を止めずに耕し続ける。

 

 

今日も『預言』通りの一日が終わる。

何事も全て『預言』通りに。

 

 

 

 

 

(朝だ…)

 

 

暖かい光が差し込む。

薄目で時計を見る。

まだ起きる時間までには少しある。

(もう少し横になろう)

 

 

男の暮らす国バルトセルバはナグドラ様の『預言』通りに行動する事を義務付けされている。

男の住居は国の外れ。

監視役が訪れるのは他の国民より少し遅い。

監視役が持ってくる『預言』が無いと男は動けないのだ。

 

 

扉の音がしない。

(おかしいな…)

そう思うが『預言』が無ければ動けない。

仕方なしに横になっている。

 

 

扉の音がしない。

(やはりおかしいな…)

そう思うが『預言』が無ければ動けない。

男は寡黙で勤勉だ。

監視役が訪れる回数が少ないのはそういう男の勤勉さを知っているからでもある。

とはいえ朝は男に『預言』を渡す為に必ず訪れる。

しかし今日はそれが無い。

 

 

(どうしたのだろうか)

起き上がってみた。

男は初めて『預言』に書かれていない事をしたのだ。

 

 

扉を開けてみる。

風が速い。

昨日も速かったがこれほどでは無かった。

 

 

(何かあったのか)

そう思うも動けない。

いやどう動いていいのかわからないのだ。

男の周りには誰も居ない。

他人と会話できる食料の交換は明日である。

 

 

ぐぅ〜

腹の音が鳴る。

いくら『預言』が無くては動けないとはいえ、空腹という本能には耐えられない。

いつ現れるかわからない監視役を気にしながら鍋に火をかける。

 

 

男は作った食事を食べながら考えた。

取り敢えずいつもやっていた事をやろうと決めた。

(いつもやっていた事をしていれば牢獄に入れられる事は無いだろう)

 

 

畑を耕す。

砂埃が舞う。

遠くの方で大きな音がする。

風が急に弱まった。

不思議に思いつつも耕し続ける。

 

 

今日も一日が終わる。

『預言』通りに動かなかった初めての一日が。

 

 

 

 

次の日も『預言』が無かった。

『預言』があったなら今日は食料の交換の日である。

いつもの『預言』の時間に食料の交換へ向かう。

 

 

そこで色々な事を聞かされた。

反乱軍が勝った事。

『預言』が無くなった事。

『自由』な国になった事。

 

 

男はどうしていいかわからなくなった。

これからも食料の交換をするという約束を交わし、家に帰った。

 

 

月明かりの下、彼は決めた。

(明日は畑を耕そう)

寡黙で勤勉な男の決意であった。

 

 

 

 

見えないところで泣いている人も居る。

 

見えないところで笑っている人も居る。

 

スポットライトに当たらない人も生きているのだ。

 

そんな男の物語。



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